ウィンナ ートーンの宿命を背負ったピアノ。『至高の音色』ベーゼンドルファーピアノとは。
Column|2026.2.20
Text_kotaro sakata
Photo_ベーゼンドルファー・ジャパン
この四半世紀以上、ウィーンの作曲家、芸術家を通してウィンナートーンを研究してきた筆者にとって、今特集でどうしても触れなければいけないのが、『音楽の都、ウィーンの音色』の伝統を任されたピアノ、ベーゼンドルファーピアノについてである。世界3大ピアノと言えば、スタインウエイ、ベヒシュタインそして、このベーゼンドルファーだ。その中でも異彩を放ち、孤高の存在でウィーンの伝統を守り、受け継がれているのが、このピアノである。
昨今のピアノコンクールブームで、コンペティションピアノとしても、コンサートグランド 280VCというモデルは、ひたすら実直にウィンナートーンという音色を響かせることを使命付けられながらも、輝かしい瞬発力を発揮するような、一聴すると矛盾の美学を共存させる。
常にウィンナートーンのDNAを潜ませウィーンの責任を果たしている。世界で最もピアノが普及している日本において、このピアノのフラッグシップモデル『インペリアル』の魅力を伝える試みを長年に渡り筆者は行ってきた。このピアノは、弾かれることのないエキストラを9鍵盤も備え、共鳴(倍音)の為に隠されている、恐ろしいまでのウィンナートーンへの追求だ。話は、今から24年前の2002年に遡る。
小澤征爾が東洋人で初めて、ウィーン国立歌劇場音楽監督の任に着き、モーツァルトのオペラ《フィガロの結婚》を上演した直後に、事件は起こった。素晴らしい演奏後のカーテンコールの最後に指揮者であるマエストロ:セイジオザワが呼び込まれ、拍手喝采に包まれるまずだった。しかし、天井桟敷席より飛んできたのはブーイングで、それが、徐々に拡大し、小澤に刃が向けられる。現場に居た私は、贔屓目ではなく、客観的に素晴らしいモーツァルト上演であると感じている。その旋律は、ウィーンの伝統に背くものではなく、むしろ高めた程であった。しかしウィーンっ子は『モーツァルトは、ウィーン人しか許さず』と言わんばかりな政治色に溢れた反応であった。やはりウィーンは、音楽芸術上演に対し厳しい。
上演後にウィーンの宮廷歌手(カンマージンガー)たちと上演について語らっていると、やはり出てくるのはウィンナートーンの話であった。日本に例えるならば、京都のお作法、詫び寂びとでも言い尽くせない、引き算の美学であり、語るだけ野暮というものなのだろう。あえて、語るなら、強く叩けば頑なに響かず、弱く叩くと鳴らず、側鳴りはせず、遠くで、ウィーンの冬を彷彿とさせる霞の中のかすかな光響とでも表そうか、聴こうとすると聞こえず、無心で心 を開いたときに、ベーゼンドルファーマイスターが奏でた音だけが届かせることが出来る至高の音色が、ベーゼンドルファーのウィンナートーンだ。
マテリアルの話をすると、コンペティターピアノは、審査員、聴衆受けする『キラキラと輝きの音色』を求める。つまり、ピアノの下に貼ってある響板だけをスプルース(高級松材でヴァイオリン表板の材)を使い最大公約数の聴衆に瞬時に煌びやかな音色を届けることを目標としている。しかし、孤高のベーゼンドルファーは、冬季北チロル地方で伐採されたスプルースを5年以上自然乾燥させ、響板だけでなく、側板に無垢材で高価なスプルースを使用し、ピアノ全体で『豊かで深い響き』を狙い、採算度外視でウィンナートーンを突き詰めた結実の芸術作品なのである。読者の方に、この孤高で、至高のベーゼンドルファーの音色を体験してほしい。一度でもこの豊かなウィンナートーンに心が震えたならば、あなたもウィンナートーンマイスターであろう。
Carrying the Weight of Vienna’s Sound:
The Sublime Voice of the Bösendorfer Piano.
For someone like myself, who has researched the “Vienna Tone” through its composers and artists for over a quarter-century, I must touch upon the Bösendorfer piano in this feature.
Among the world’s great pianos, it is this instrument that radiates a unique character and stands as a solitary presence, guarding and inheriting the traditions of Vienna.
The Model 280VC coexists within an “aesthetic of contradiction” upon first listen. It always carries the DNA of the Vienna Tone, fulfilling its responsibility to the city. The Imperial features nine extra keys that are never played; they are hidden away solely for sympathetic resonance—a formidable pursuit of the Vienna Tone. As someone present at the venue, I feel—without bias—that it was an objectively magnificent Mozart performance. The melody did not betray Viennese tradition; rather, it elevated it.
The Vienna Tone is an “aesthetics of subtraction” that cannot be fully captured by terms like Kyoto’s etiquette or Wabi-sabi; indeed, it may even be uncouth to try and put it into words.
The Vienna Tone of a Bösendorfer is a supreme timbre that can only be delivered by a master when the listener opens their heart with a clear mind. By using expensive solid spruce even for the rim to achieve a “rich and deep resonance,” this is a masterpiece—the fruition of a pursuit of the Vienna Tone that completely disregards profitability.
問い合わせ先 /ベーゼンドルファー・ジャパン
〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい5-1-2
横浜シンフォステージウエストタワー1F
電話:045-307-1012(事前予約制)
ご試弾可能:水曜日~土曜日11:00-18:00
《ご予約はお問い合わせフォーム またはお電話にてお願いいたします。》

https://inquiry.yamaha.com/contact/?act=1029&lcl=ja_JP

ベーゼンドルファーインペリアル:
世界各地の有名ホールには必ず鎮座している
エキストラ鍵盤(9鍵盤)を備えた至高の
ウィンナートーンピアノ。

ウィーン楽友協会内の
ベーゼンドルファー本社

ベーゼンドルファーコンサートグランド280VCモデル:
ウィンナートーンに煌びやかな音色を溶け込ませた至高の一台である。
