Bourgogne |Art de vivre|
Feature | 2025.12.24

暮らすことがアートになる場所
ブルゴーニュ公国の広大な領地だったこの地は、中世の名残をとどめる史跡が多く、タイムスリップしたような街並みが残っている。バカンスの時期には、多くの場所で催しが行われて、訪れる者を飽きさせない。
古い城跡でイベントがあると誘われ、出かけた時。行ってみると、そこは崩れた城壁の廃墟だった。後継者がおらず、朽ちていく史跡がブルゴーニュのあちこちにあって、これをベネボラと言われるボランティアがコツコツと修復しているのだという。バカンスの時期に一般公開され、ベネボラによるツアーが行われるというので、それに参加した。
見渡す限りの廃墟の中、歴史と建築の話を立ったまま延々と聞く。1時間経過。正直飽きた、しんどい。それなのに小学生ほどの子どもたちもが黙って聞いていることに驚いていると、同行者がこう言った。「日本人は短い時間であちこち回りたがるけど、私たちはこんな風に休日を過ごすことが好きなんだよ。お金をかけなくても楽しめることがたくさんあるからね」。
確かに、フランスの人たちはお金をかけずにバカンスを楽しむ達人だ。ブルゴーニュの運河を船を借りてのんびり下っていき、日中は読書や昼寝を楽しむ。自転車で旅する人、車で寝泊まりする人。行く先々でちょっとしたイベントや、街のホールでの展覧会、教会でのコンサートなどを楽しみ、その多くは無料だ。舞台やコンサートは最後に帽子にお金を入れる「シャポー」で、身の丈にあった額を入れる。
こんな風に田舎にいると、本当にお金がかからない。それでも、素敵に豊かだと感じる瞬間がある。アール・ド・ヴィーヴル(Art de vivre)―生きることは芸術。そんな言葉は、こうした場所から生まれたのかもしれない。
ブルゴーニュに限らず、フランスの美術館や展覧会場では、先生が子どもたちを連れて車座になって説明している姿をよく見かけるのだが、質問を投げかけると「はい! はい!」とこぞって手を挙げ、意見を言い出す姿はとても微笑ましい。誰もが、自分の感じたことを自由に言ってよいという空気がそこにあって、それはアートへの向き合い方にも現れているように思う。
ブルゴーニュの小さな町で開かれた地元作家の個展を訪ねた折も、同行者にこう言われた。「作家がいたらなんでもいいから聞くこと。黙っているのは作品に興味がないよというメッセージだから、とても失礼なんだよ」。どんなにささいなことでも、聞くこと、伝えることが大事。子どもの頃からの体験がこうした場所で生きるのかと、腑に落ちた気がした。アートは日常の延長にあり、対話により深まっていくことを知ったのも、この地での経験が大きい。
ぶどう畑のはずれにステンドグラスの職人さんが住んでいたり、変哲のないアパートの一角にルリユール(製本を行う職人)の工房があったり。中庭の先に大きな窓のある家が、ルーブルの名画なども扱う絵画修復士のアトリエだったりする。奥へ奥へと入り込むほど、フランスの文化の底力と、ブルゴーニュが抱え持つ歴史の深淵さが広がっていく。
豊かな大地と実り、実直な人々と美しい風景。ブルゴーニュ、美しい人生の場所。ここには人生をゆっくり、そして豊かに生きるためのヒントが、そっと息づいている。
Bourgogne−Art de vivre.
Where living becomes art.
Burgundy, the former Duchy, retains many medieval ruins that make me feel like I’ve time-traveled. I attended a public volunteer (Bénévolat) tour at a ruined castle, where I learned that volunteers are painstakingly restoring sites that lack successors.
Standing there for an hour, I felt tired of the long history talk, yet I was surprised the children listened quietly. My companion told me that the French prefer this slow, inexpensive holiday style, finding enjoyment without rushing or spending much money.
I realized the French are experts at enjoying holidays inexpensively, whether by leisurely traveling the canals by boat, cycling, or enjoying free local events. Many performances use the “chapeau” (hat collection) for payment. Living in the countryside costs little, yet I feel profoundly rich.
This simple, satisfying lifestyle makes me believe the phrase Art de vivre (The Art of Living) must have originated in places like Burgundy.
In French museums, I often see children enthusiastically raising their hands to share their opinions on art, which shows me that everyone is free to express their feelings.
My companion later stressed that when visiting an artist’s exhibition, it is crucial to ask questions, as silence is a rude sign of disinterest. This made me realize that dialogue is essential and that art is an extension of daily life, an understanding deepened greatly by my experience here.
I find cultural depth in unexpected places: artisans like stained-glass makers and bookbinders (relieurs) hidden away, and painting restorers working on masterpieces. The deeper I explore, the more profound the region’s history and the underlying power of French culture become.
With its rich land and beautiful scenery, Burgundy is a place for a beautiful life, offering gentle hints on how to live slowly and richly.



