地球温暖化への思いが生む、空想の空間。
Feature | 2024.05.23
『111l』
「もしも宇宙に雪が降ったら」。
そんなイメージを、実際の風景を連鎖させながら表現。ここにあるのに、どこにもない、「111l」の世界。
空間とは。辞書で引くと「物体が存在しないで空いている所。また、あらゆる方向への広がり」とある。実際にはない虚構の空間というものもあるし、近頃ではメタバースというインターネット上の仮想空間もある。そうして空間について思いを巡らせるきっかけになったのが写真家 藤田はるか氏の写真集を見たから。タイトルは「111l」。これは111という数字とlightの頭文字であるlからなる言葉で111光年を意味しているという。
これがなんとも不思議な写真集。現実にある風景を撮っているようだが、それが地球上のものとは思えない。ページをめくりながらイメージが連鎖し、壮大な世界をつくりだす。この写真集で表現されているのは「もしも宇宙に雪が降ったら」という空想の空間。
ある年のこと。いつもなら藤田氏の家の近所で8月に開催される花火大会が、気候変動のため10月開催へと変更された。同じ頃、中谷宇吉郎雪の科学館の館長から「宇宙のとある惑星の大気中に水蒸気の存在が確認された」と聞いた藤田氏。その話から“もしかしたら宇宙でも雪が降るかもしれない” という思いにとらわれ、温暖化が進み悪循環の渦にある地球の現状と交互に、頭の片隅で誰もいない暗い空間で舞う雪を想い描くようになる。そうしてそれを写真集として表現したのが「111l」。「いつか人類は、かつては美しかったこの土地を逃れて旅立つのだろうか。残された私たちは様々な思いと願いを載せて花火を打ち上げるかもしれない」と藤田氏は想像する。
豊かなイマジネーションのなかで、現実は空想となる。そんなアンビバレントな世界が「111l」で楽しめる。
A fantastical space born from concern about global warming.
What is space? According to the dictionary, it’s “a place empty of physical objects, extending in all directions.” Beyond tangible space, there are fictional realms and, more recently, virtual environments like the metaverse. My interest in space deepened after exploring Haruka Fujita’s photo book, 111l. Named for the number 111 and “l”, the initial of ‘light,’ the title means 111 light-years.
111l is a captivating photo book. It portrays seemingly real landscapes that possess an otherworldly quality. As one turns the pages, the images connect, conjuring a vast, expansive world. This book presents an imaginative realm, exploring the intriguing concept of snow falling in space. One year, the usual August fireworks festival near Fujita’s home was delayed until October due to climate change. Around the same time, he learned from the director of the Nakaya Ukichiro Museum of Snow and Ice that water vapor had been detected in the atmosphere of a distant planet. This sparked his imagination about the possibility of snow in space, juxtaposed with thoughts on Earth’s worsening climate crisis. These reflections inspired his photo book 111l. “Someday, humanity might flee this once beautiful land,” Fujita muses. “Those of us left behind might launch fireworks carrying our various thoughts and hopes.”
The artist’s rich imagination turns reality into fantasy, and 111l invites us to explore this ambivalent world.
写真集『111 l』のオンライン展示が開催中。
ライトボックスによって浮かび出される藤田はるかの写真たち。
幻想的で、美しい世界が広がっています。
https://www.fujitaharukaphoto.com/111l-photo
写真集『111 l』展示会 開催
(入場料)無料
2024年 5月17日(金)〜6月3日(月)
月・金:13:00~18:00 / 土・日:12:00~17:00
※火・水・木(クローズ)
会場: MONO.LOGUES 東京都中野区中野5-30-16 メゾン小林101
https://www.monologues.jp/