暮らしが深まるアートを本棚に。

Feature

2024.02.22

本棚にある写真集や画集をめくれば異世界が現れる。
広く、深く、日常を演出してくれるアートブックとの出会い。

田中麻記子 Makiko Tanaka『Vu Vu』

あなたの本棚には、どんなジャンルの本が並んでいるだろうか。純文学があったり、ノンフィクションがあったり、ビジネス書があったり。文字が詰まった左脳に訴えかける書物が並ぶなか、絵画や写真で右脳を心地良く刺激してくれる棚があると、なんだかホッとする。手に取って開く。ひと目で、一瞬で、別世界へと連れていかれる。さらにページをめくれば、その世界はどこまでも、果てしなく続く。そのとき人は、イマジネーションという翼を広げ、大きく羽ばたいている。
今回、素敵なアートブックをキュレーションしてくれるのは、芸術系の出版などをおこなっている「HeHe(ヒヒ)」。
あなたの美意識に触れるのは、どの一冊?

What types of books are on your shelves? Pure literature, nonfiction, business books? Amidst these text-heavy, left-brain books, it’s comforting to have right-brain stimulating works with paintings and photographs on your shelves.Open one of these books and a single glance transports you to another world. As you turn the pages, this world extends infinitely, and your imagination spreads its wings and soars. The books featured here, curated by HeHe, known for their art publishing, invite you to discover which ones appeal to your aesthetic sense.

菅木志雄 Kishibo Suga『制作ノート 1967-2008』

荒木経惟 Nobuyoshi Akira『センチメンタルな旅 1971-2017』

デニスモリス Dennisu Morris『Colored Black』

アートの出会い方、選び方、楽しみ方。

田中麻記子 『 Black Hawaii 』

昼と夜、あわいの時間にだけ立ち上がる夢物語。カラフルでキュート、ダイナミックな絵が人気を集める田中麻記子が描き出したもうひとつのハワイ。トム・ウェイツやエルビス・コステロとも交流のある、世界的ギタリスト、マーク・リボーが、この本のために書き下ろした新曲2曲を収録した、レコード付きスペシャル作品集!

久家靖秀 『Mnemosyne 』

美術家の制作現場を撮影した写真集「Atelier」の発表から10年、写真家・久家靖秀は二人のパフォーマー〈砂山典子(ダムタイプ)、池宮中夫(ノマド-s)〉に出会い、このシリーズ制作ははじまりました。身体表現を生成する瞬間を絵画的に変換する「Mnemosyne(ムネモシュネ)」は、裸体の記憶を過去から未来まで自由に横断します。[Mnemosyneとは、ギリシャ神話に登場する記憶の女神であり、ミューズの母親]

鈴木ヒラク 『SILVER MARKER』

「ドローイング」を絵と言葉の間にある線の「発掘」行為と捉え、多岐に渡る手法によってその可能性を拡張し続けている鈴木ヒラク。これまでに国内外の美術館での展覧会参加はもとより、大規模な壁画制作や、詩人/音楽家らとのパフォーマンスなど、様々な領域を横断しながら独自の世界を探求してきました。
『SILVER MARKER』は、この活躍目覚ましいアーティストの10年間に渡るドローイングの軌跡を収めた、渾身の作品集です。

内藤礼 『うつしあう創造』

小さなひとが立ち、水が落ちるところに大地が広がり、糸やリボンが揺れるときに風が生まれ、ビーズやガラスが光をまねき入れる。内藤礼は、空間と対話しながら自然のエレメントや繊細なモチーフを組み合わせ、またカンヴァス上に淡い色彩を重ねることで、根源的な生の光景を出現させてきました。『「人(わたし)が作る」を超えること』を問い続けてきた作家が、はじめて「創造」と向き合った展覧会「うつしあう創造(金沢21世紀美術館)」。それは人が自らを主体であると認め、人になろうとする行為だと作家はいいます。人と自然、わたしとあなた、生と死、内と外、そして人と作品のあいだに生じる移し、写し、映し、遷し。「うつしあう」両者のあいだに顕われる生気、慈悲、それらとの一体感のうちに、生へと向かおうとする「創造」の瞬間がそこには満ちていました。本書は、畠山直哉の撮影により、大小さまざまな展示室や光庭、それをつなぐ通路によって構成される作品空間と、日中の自然光から、明かりが灯る夕刻以降へのうつろいをも追体験できる、贅沢な作品集です。

近藤恵介 冨井大裕 『あっけなく明快な絵画と彫刻、続いているわからない絵画と彫刻』

日本画家・近藤恵介と美術家・冨井大裕、2人の作家により2010年に制作された共作《あっけない絵画、明快な彫刻》シリーズは、2013年に川崎市市民ミュージアムで再展示され、その後、同館に寄贈されましたが、令和元年東日本台風(2019年)によって収蔵作品7点すべてが被災しました。現代美術の修復というあまり例のない状況を経て、2023年3月、川崎市市民ミュージアムWEB上で展覧会を開催。本書は、作品の修復過程を追いながら、以前のかたちを失ってしまった作品の新たな展開と、その経験をふまえて制作された新作、その経緯と心情の記録をまとめた一冊です。

藤田はるか 『winter』

喧騒のなかで忘れ去られた、それぞれの時間。その場所に立てば、冷たい足元の下に固く埋もれる、幾層にも重なり合って眠っている歴史の残骸を感じる。2013年に故郷・東北を撮影した写真集『いくつもの音のない川』を発表した藤田はるかが、その以前から10余年もの間、場所を特定せずに、ただ、雪に魅せられ、撮り続けてきた景色。ここは誰のものでもなく、同時に私だけのものでもある、そんな新しい繋がりを呼び起こします。田中義久のブックデザインにより、まるで雪のなかを迷いながら、すべてに包み込まれるような読書感覚を持つ、真っ白で美しい写真集。

HeHe/ヒヒ <出版元>

2014年より、東京を拠点にアートブックの出版を中心に、編集、展覧会の企画などをおこなう。菅木志雄、内藤礼、大竹伸朗、鈴木ヒラク、マーク・マンダース、ライアン・ガンダーなどの現代美術家の作品集や、荒木経惟、川内倫子などの写真集を出版。他にヨーガン レールやイッセイミヤケなどのファッションデザイナー、浅野忠信の画集やチバユウスケの詩集など多ジャンルに展開。自身のレーベルでの出版のほか、藤田嗣治展などの美術館図録の編集も手がける。

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