高そうな映画は、なるべく観ないんです。観たら、欲しくなっちゃうから。
Feature | 2026.9.15

ザジフィルムズ代表
志村大祐氏

ザジフィルムズ
1989年設立の独立系映画配給会社。
劇場未公開作品のライセンス事業から出発し、
1992年に劇場配給を開始。
ゴダール、ヴァルダ、シャブロルなど
世界の個性的な作品を日本のスクリーンへ届けてきた。
配給会社の仕事は、映画をつくることではない。
世界のどこかで生まれた一本を見つけ、日本の観客の前まで連れてくる。
ゴダール、ロッセリーニ、ルイ・マル。まだ日本では知られていない新作も、忘れられかけた旧作もある。
1989年にザジフィルムズを立ち上げた志村大祐さんは、
約37年間、映画を選び続けたいまも、何が当たるかは「わからない」という。
その、わからなさのなかで、なぜ映画を選び続けるのか。
――そもそも、なぜ配給会社を始めたんですか。
映画は小学生の頃からよく観ていました。中学生の頃、横浜から銀座の映画会社まで、友人とチラシをもらいに行ったりして。その後、レンタルビデオ向けに劇場未公開作をリリースする会社に入りました。そこで2年半ほど働いて、独立しました。
――社名の「ザジ」は、ルイ・マルの『地下鉄のザジ』から?
そうです。ただ、ものすごく『地下鉄のザジ』が好きだったから、というほど格好いい話でもなくて(笑)。友人と「濁音の多い会社は伸びるらしい」なんて話をしていて、「じゃあザジじゃない?」と。それでザジフィルムズになりました。
――作品を選ぶとき、「売れるか」はどのくらい考えますか。
もちろん考えます。でも、緻密にマーケティングしているわけでもない。「これ、かっこいいな」とか、「いまやったら面白いんじゃないか」とか、わりと動物的な勘でやっているところもあります。
たとえば『1975年のケルン・コンサート』。キース・ジャレットの伝説的なコンサートを描いているのに、本人の音源が使われていない。それでほかの配給会社は躊躇していた。でも私は観て、音楽がなくても全然問題ない、映画としてすごく面白いと思った。登場人物も魅力的で、観たあとに気持ちが上がる。それで買い付けました。
――いいと思ったら、走ってしまう。
そうですね。カンヌなんかでも、「これは絶対に値段が上がるな」と思う映画は、なるべく観ないようにすることがあります。観てしまって、いいと思うと、欲しくなってしまうから(笑)。見なければ諦められる。でも見て気持ちが動いたら、諦められない。
――新作だけでなく、ゴダールやロッセリーニ、ジャック・タチ、アラン・ロブ=グリエなど、旧作の上映も続けています。
私自身、昔の映画を映画館で観て育ったところがあります。銀座文化や名画座に通って、ルイ・マルの映画や『地下鉄のザジ』もスクリーンで観た。そうやって映画を勉強してきたんです。
だから、いまの20代、30代にもスクリーンで観てもらいたい。ロッセリーニの『ドイツ零年』とゴダールの『新ドイツ零年』を組み合わせて上映してみたり、知られていなかった監督を特集したり。ただ古い映画を並べるのではなく、いま観る理由をつくる。昔から映画を観ている人の知的好奇心にも応えたいし、初めて観る人の入口にもしたい。その両方ですね。
“I try not to watch movies that look expensive—
if I do, I’ll just end up wanting them.
A distributor doesn’t make films,
but brings works from around the world to Japanese audiences—from Godard,
Rossellini, and Malle to obscure classics. Daisuke Shimura, founder of ZAZIE FILMS,
says that after 37 years, he still cannot predict what will be a hit.
Why keep choosing films amid such uncertainty?
—Why start a distribution company?
I’ve loved movies since childhood, even traveling from Yokohama to Ginza in middle school to collect flyers. After working two and a half years distributing unreleased films for video, I went independent.
—Is “Zazie” from Louis Malle’s“Zasie” in the Metro?
Yes, but simply because a friend and I heard company names with voiced consonants bring success. We said, “How about Zazie?” and ZAZIE FILMS was born.
—How much do you consider commercial potential?
Of course I do, but mostly through gut instinct—thinking, “This looks cool.” Take “The 1975 Cologne Concert”. It lacked Keith Jarrett’s actual music, making others hesitate. But I found it compelling anyway, with great characters that lifted your spirits, so I bought it.
—So once you like a film, you can’t resist taking the plunge?
Exactly. At Cannes, I avoid watching expensive-looking movies—if I do, I’ll want them. If I don’t see a film, I can walk away. But if it moves me, I can’t.
—You also continue screening classics like Godard, Rossellini, Tati, and Robbe-Grillet.
I grew up watching classics in theaters, which is how I learned cinema. I want younger generations to experience them on screen too. Rather than just showing old films, I create a reason to watch them today—like pairing Rossellini’s “Germany Year Zero” with Godard’s “Germany Year 90 Nine Zero”. I aim to satisfy longtime filmgoers while creating entry points for newcomers.









何年やっても読めない。配給はやめられない。
――1本を買い付けたら、
次はどうやって観客のところまで届けるんですか。
映画によって、合う劇場は違います。ロバート・バトラー監督の『ジャグラー/ニューヨーク25時4K修復版』ならシネマート新宿がいいんじゃないか、と考える。作品を買うだけではなく、どこで、どのタイミングで上映するかまでが配給の仕事なんです。
――宣伝にも、ザジフィルムズは長く関わってきましたね。
『落下の王国』も最初の日本公開では、うちが邦題を考えました。当時は大ヒットというほどではなかったけれど、その後、衣装を担当した石岡瑛子さんの展覧会などをきっかけに作品を知る人が増えていった。2025年の再上映では大ヒットしました。映画って、公開したときだけで終わらないんですよね。
――宣伝でヒットをつくることはできる?
例えば『オオカミの家』はSNSで独特の世界観が広がった。『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』では、「タイ版『カメラを止めるな!』」という一言が作品の魅力を広めてくれた。一方、『1975年のケルン・コンサート』は、大きな起爆剤があったわけではなく、じわじわと観客に届いた。ヒットの仕方も一本ずつ違います。
――公開するときは、いまでも緊張しますか。
しますよ。いまはオンラインでチケットの売れ方が見える。入る映画はどんどん席が埋まるし、厳しい映画は、本当にポツポツとしか動かない。
だから初日は、何十年、何十本やっていても胃が痛いです。うまくいったらいったで、「2週目にどれくらい落ちるんだろう」と気になる。心が安定する仕事ではないですね(笑)。
――それでも、やめられない。
やっぱり楽しいんです。私は映画をつくる芸術家ではないけれど、作品を選び、買って、どう見せるかを考えて、観客に届ける。それはある意味、自己表現でもある。しかも黄金率みたいなものがない。絶対に当たると思ったものが厳しかったり、難しいだろうと思ったものがうまくいったりする。何年やっても興行はわからない。だから、やめられないんでしょうね。
――これまでで、特に思い入れのある映画は?
『サヨナラCOLOR』ですね。私は原田知世さんの43年来のファンで(笑)。竹中直人監督の作品で、配給がまだ決まっていないと聞いたとき、プロデューサーに紹介してもらい、うちで配給することになった。
――ヨーロッパ映画ではなく、『サヨナラCOLOR』なんですね。
そうなんですよ(笑)。
――最後に。配信で何でも観られる時代に、それでも映画館で観せる意味は?
知らない人同士が同じ場所で同じ映画を体験することが大きいと思います。映画って、誰と、どこで観るかによっても変わるんです。
それに配信には、あまりにたくさんの映画があって、何を観たらいいかわからない。音楽をレーベルで選ぶように、「この配給会社が選ぶ映画なら観てみよう」という見方があってもいいと思う。実際、「ザジが配給するものは信頼して観ています」と言ってくださる方もいる。長く続けてきたことで、そういう人が少しずつ増えているのかもしれません。
No matter how many years pass, it remains unpredictable.
Yet film distribution is impossible to stop.
—Once you buy a film, how do you reach audiences?
Different films suit different theaters. For Butler’s “Night of The Juggler”, Cinemart Shinjuku felt right. Distribution isn’t just buying movies—it’s choosing where and when to show them.
—ZAZIE FILMS has long handled promotion as well.
We named “The Fall “for its original Japanese release. It wasn’t a hit then, but interest grew through costume designer Eiko Ishioka’s exhibition, making the 2025 re-release a big hit. Movies don’t end after their first run.
—Can promotion create a hit?
“The Wolf House” spread via SNS. For Bad Genius, calling it “the Thai One Cut of the Dead” built buzz. Meanwhile, “The 1975 Cologne Concert” grew slowly without a big trigger. Every hit is unique.
—Do opening days still make you nervous?
Always. Online ticketing shows real-time sales. Popular films fill up fast, while tough ones move slowly. After decades, opening day still causes stomachaches. Even with a good start, I worry about week two. It’s not a job for peace of mind!
—And yet, you can’t stop.
It’s just fun. I’m not an artist who makes films, but selecting, buying, presenting, and delivering a movie to audiences is, in a way, self-expression. Plus, there’s no golden rule. Films expected to hit can struggle, while difficult ones succeed. Box office outcomes remain unpredictable no matter how many years pass. That’s probably why I can’t quit.
—Is there a film you hold particularly dear?
“Sayonara Color”. I’ve been a fan of Tomoyo Harada for 44 years! (laughs) Hearing Naoto Takenaka’s film lacked a distributor, I met the producer and brought it to us.
—Not a European film?
Exactly! (laughs)
—In the streaming era, why show films in theaters?
Experiencing a movie in the same space alongside strangers is huge—where and with whom you watch it changes the film. Also, streaming offers too many choices. Just as people choose music by record label, some now say, “I trust whatever ZAZIE distributes.” Continuing for so long has gradually built that trust.

フォー・トレイズ限界を超えてゆけ《全国順次公開中!》
© Lost Atlas Productions

眺めのいい部屋 4K 《9月25日より 全国順次公開》
©1985 A ROOM WITH A VIEW PRODUCTIONS LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

ジャグラー/ニューヨーク25時 4K修復版
© 1980 GCC Films,Inc
『眺めのいい部屋 4K』 9月25日(金)より
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開

【第59回アカデミー賞3部門受賞】
名匠ジェームズ・アイヴォリー(『君の名前で僕を呼んで』脚色/共同製作)監督作品。映画史にその名を刻む不朽の名作が、作品生誕40周年を記念して4Kで甦る!

配給:ザジフィルムズ ©1985 A ROOM WITH A VIEW PRODUCTIONS LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
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「週刊ザジフィルムズ通信」連載中

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